結婚の準備
昭和三十年頃の結婚準備

三〇万円を目標に

僕は、結婚適齢期のサラリーマン。勤続四年で、月給は一万八○○○円。もうそろそろ結婚してよいころだと思っている。いや、今年中には》なんとかよい配偶者を見っけるつもりだ。男は貯金がへただというし、事実、周囲の同僚で、貯金している独身者なんて、いるかしら。しかし、僕は大学も自力で出た。結婚はもちろん自分の力でしようと決心している。入社以来貯金をつづけて、目標の三〇万円はすでに完遂した。しかし、僕はワクにしぼられて貯金をするのはきらいだ。また、「毎月これだけは」ときめてしまったら、かえっ
てやりにくいのではないだろうか。残ったらみんな貯金をする。これが僕のモットーだ。だから、ときにはハメをはずして遊ぶこともある。クラス会の二次会では、一晩に四〇〇〇~五〇〇〇円も、軽く使つてしまう。しかし、そのあとはきゅっとしめる。好きな旅行も一回はがまんする。僕にはそれがつらく
ない。パッと遊んだあとは、また貯金に精出して、目標に近づくのが楽しみなのだ。もし友だちつき合いもせずに、いつもケチケチとためていたのでは、こんな気分にはならないだろう。生活までいやになってしまうに違いない。「僕が貯金できる最大の武器は、酒を飲まないことだろう。タバコは一日に一箱。それと毎日一杯のコーヒー。映画は、家の近所の二流館で見る。さて、僕の貯金歴はざっと次のようだ。
入社第一年目・・この年は、月賦で服装を整えることにした。だから、貯金ははじめからするつもりがなかった。
入社第二年目・・やっと身の回りが整った。昇給もしたので、貯金を始める。
こづかい月三〇〇〇円。(毎日コーヒー五〇円、タバコ五〇円)衣類はボーナス期に補充する程度。残りは全部貯金した。方法は六ヵ月の定期預金。出張手当など、特別収入は、趣味の旅行費として、別に積み立てることにした。この年一年で一〇万円の貯金ができた。六ヵ月の定期預金にした理由は、結婚のこ
とを考えると、一年では長すぎ、三ヵ月では短いと思ったからだ。
入社第三年目・・さらに昇給したので、家へ六五〇〇円とボーナスのうち一万円は入れることにする。この年から、結婚を真剣に考え始め、資金は一五万円と予定した。夏のボーナスも入れて、六月末までに一五万円を貯金した。第一目標は達成したわけ。これ以後のお金で、僕もマネービルをしてみたくなった。友人に株の専門家がいたし、もう一人の友人は、株をやりたがっている。よし、ご人のお金を合わせて、なるべく多種類の株を買おうと相談した。年末、五万円貯金ができ疫。これではじめて株を買った。このとき、友人が注意してくれたことは、①短期の売買はしない。②確実なものをねらって長く。③増資を図る会社をねらう。売買のチャンスは友人にまかせた。
入社第四年目・・株をやめた。友人がついていたから、暴落にも売り急いで、損をするようなことはなかった。しかし株には夢がない。それに、今年になって、もっと結婚のことを考える度合いが強くなった。いざ結婚というとき、株は有利に手離せないかも知れないと思ったからだ。このため、年頭に三〇万円貯金の目標を立て、また定期預金にもどった。しかし、すでに六月。ボーナスも加えて、僕の貯金は三〇万円になっている。もう、いつでも結婚できる。
この資金で、僕は簡素だが、うんと明かるい結婚式をしたい。新形式で、みんなが底抜けに楽しい気分になるような。花嫁はもちろん真白いウェディングドレス。できたら、土地も早く買っておきたい。ところで、まだ花嫁候補は見つからない。見合いもしたが、僕は二、三度回を重ねて会ったあとに「あなたの月給はいくら」と聞いてみる。少ないのが恥かしいのか、もじもじして言わないお嬢さんが意外に多い。そういう人は僕にとっては失格なのだ。月給の高ではない。働いて得ているお金を率直に、誇らしげに語ってくれるような人をお嫁さんにしたい。

自分たちの家庭をもちたい
一〇年前、カバン店に年季奉公に住み込んでから、早く自分の家庭をもちたいと思っていました。一日も早く住み込みをやめ、信用を築きたい。ほんどうの信用は、家庭をもってからできるのだ、と考えていたからです。これは、苦労して」家をなした主人夫妻に影響されたことも事実です。入店後五年で、年季奉公は明けました。はじめて一人前の職人として得た月給は四〇〇○円。このとき、結婚資金を貯金しようと決心しました。そのころは、一〇年たったら結
婚するつもりでした。
月掛け一〇〇〇円:主人のすすめで、月給の中から一口一〇〇〇円を月掛け貯金にしました。三年後には、月掛けを二口にふやすことができました。
私は志行会(住み込み店員さんなどが作った、全国組織の会)の仕事もしていましたから、会費や交通費などに、月一〇〇〇円はかかります。そのころ、月給は六〇〇〇円になりましたが、二〇〇〇円の貯金はらくではありませんでした。
早くなった結婚:積立てが満期になったとき結婚するつもりだったのが、思いがけず早くきじまつるこなりました。同じ志行会会員の木島鶴子と知り合って、結婚することになったからです。ご人で結婚費用を計算してみると、どうしても二二万円は必要でした。ところが、五年満期の月掛け分が六万七〇〇〇円あとからの分は解約のため三万六〇〇〇円計一〇万三〇〇〇円しか、たくわえぶありません。そのとき、故郷の母が、三万円を祝い金として出してくれたのです。しかし、実際に私たちが使った結婚費用は、次表のようでした。
予定よりはるかに少ない出費ですんだのは、店の主人が、私たちへのお祝いとして、アパートの権利金一万円のほか、台所用品、食料品などを援助してくださりたからセす。また、全会員に報告するつもりでテレビ結婚式を申し込み、さいわい選に入ったので、挙式などの費用も節約できました。現在の私たちの希望は、将来独立して店をもてたら、ということ。夫はカバン製造、妻は子ども服の仕立てで。そのためにも、妻は結婚の荷物の中に業務用ミシン(二万五〇〇〇円)を用意して来たのです。

嫁の持ち物
山形県東田川郡櫛引村の婚礼改善推進協議会では、「嫁の衣服及び道具の持ち数」調査をしました。三十五才以下の若妻三三二名の回答を見ると、夏の作業衣(夏でたち)を一=枚以上もっていると記入した人が一三二名もあります。もんぺ二〇枚をもっている人は一九名、一五枚が三五名。冬の紋服二枚をもっている人は六九名でした。ちょっとびっくりさせられるのは、シャツを一二枚もっている人。寒い東北の嫁さんには、これだけ必要なのでしょうか。下着や作業衣の手持ちが多すぎるのは、悪いとばかりはいえません。、しかし農村で
は、紋服や外出着も必要以上にたくさんもって嫁入りする習慣がまだ一般的です。また、結婚後五、六年は、実家で何かとめんどうをみてもらうのが普通だとか。浪江慶氏(農山漁村文化協会理事)は、「嫁の地位が高くなり、婚家先で、必要に応じて何でも買ってもらえるようになれば、嫁の荷物は少なくなる」と言っています。